STORY
「立てばシャクヤク、座ればボタン」の言葉が示す通り、古来よりシャクヤクは美人の代名詞として親しまれてきました。その一番の特徴は、なんといってもつぼみから花開くまでのドラマティックな変化です。木琴のバチを思わせる丸く硬いつぼみが、ふっとゆるみ、エレガントな大輪の花へと変貌を遂げます。
ガーベラを始めとする多くの花は咲いた状態で出荷されますが、これに対しシャクヤクは、つぼみの状態で出荷され、花屋やお客様の手元で開くのが一般的です。土から栄養を吸い上げている畑で開花調整を行うことができないため、切り花になってからもきちんと咲く花を栽培する技術が求められます。
善光寺平の北東部に位置する中野市は、昼夜の気温差が大きく、降水量が少ない気候をいかし、ぶどうをはじめとする果樹栽培が盛んに行われています。初夏の季節は150万本を超えるシャクヤクを出荷する、日本一のシャクヤク産地でもあります。100名を超える生産者がシャクヤクを生産しており、畑の総面積数は東京ドームおよそ5個分にもなります。
「必ず咲くシャクヤクを作る」をモットーにする同産地では、2つのこだわりを持って栽培に取り組んでいます。1つ目は、「時間をかけて丈夫な株(茎)を育てる」こと。シャクヤクの苗を植えてから3年は、花が咲いても採らず、じっくりと株にエネルギーを蓄えることに時間を注ぎます。一見、時間がもったいないようにも感じますが、こうして年数をかけ、栄養が行き渡った株から咲くシャクヤクは、土から離れても開花するエネルギーを持った強い花となります。生産者さんは「欲を出して切れば(花を収穫すれば)その年の売上にはなるけども、絶対に翌年以降にいい花はできない。あきらめが肝心!」と、極意を語ります。
2つ目は、「適切な切り前(収穫のタイミング)を見極める」こと。収穫のタイミングが早すぎると開かず、また、遅すぎると出荷の最中に開花してしまうため、どのタイミングで花を切るかが大きな鍵です。多くの生産者を抱え、多品種のシャクヤクを栽培するJA中野市では、品種ごとに異なる切り前の知識を正しく伝えるために、毎週「目揃い会」と呼ばれる生産者同士で情報を共有する会を設けています。
こうして育てられたシャクヤクは、共撰所(組合農家さんたちが収穫した花を選別・出荷する場所)へと運ばれ、品質チェックと箱詰めを経て、全国へと出荷されます。私たちの手元にシャクヤクが届き、その美しさを味わえる期間は約1 ヵ月。そのわずかな時間を、お客様に楽しんでいただけるよう、長い時間をかけ大切に育てているのです。 シャクヤクを飾る際には、丸いつぼみの背景にある、生産者さんたちのこだわりと我慢、そしてたくさんの想いに、ぜひ思いを馳せてみてください。