夢の切花パンジーが生まれるところ
みやび花園/群馬県
- 生産のきっかけは偶然の出会いから 鉢植えのイメージが強いパンジー。実は切花でも楽しめることを知っていますか?
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- 「今までにない花色」を求めて、育種の道へ
- 生産を始めた佐藤さんが直面したのは「切花に適した品種は花の色が限られる」という課題でした。当時、湿度に強く、出荷に適した丈まで成長してくれるパンジーは、ほとんどが紫色の品種。切花パンジーの需要を拡大し、フローリストやお客さんに喜んでもらうには新しい色の品種を作ること、すなわち育種を行う必要があったと語ります。園芸用のパンジーの育種の例は数あれど、切花を目指した育種は史上初の試みでした。
「今までにない感動を与えてくれる花を作りたいんです。色だったり、形だったり。見た人がわっと驚くようなものを」 - 試行錯誤を重ね、2008年にはオリジナル品種の「カルメン」が誕生しました。特徴は黄色を基調に、ピンクや薄紫色が入り混じったミックスカラー。同じ品種でも一つひとつ色の出方が異なります。瞬く間に、多くのフローリストがラブコールを送る存在となりました。
このカルメンを筆頭に、現在は『絵になるスミレ』シリーズや和の情緒をまとった「粋」など約15種を栽培。そして2021年にはオリジナルの新品種「春うらら」がデビューします。ホワイトとライトピンクが溶け合った優しい色合いで、その名の通り、あたたかな春の希望を感じさせるパンジーです。 - 株を丈夫にするための「花摘み」
- 多彩で美しい花色はもちろんのこと、みやび花園さんのパンジーの大きな魅力は抜群の花持ちにあります。株の力を使いながら咲くパンジーは、長年「切花ではもたない」と言われてきましたが、佐藤さんの育てたパンジーはそんな定説を覆し、花業界に衝撃を与えました。3~4週間、環境によってはそれ以上楽しめるという、驚きの品質。その秘密は、「花摘み」の作業にあります。
花摘みとは、種を撒いてから一定の長さに成長するまで、ひたすら花を摘む作業のこと。茎が出荷に適した30~40cmになるまで、一度に5~8輪咲く花を、ひと株ずつ手でプチプチと摘み取りながら成長を待ちます。これを繰り返し行うことで、株が日光をたっぷり吸収し、たくさんのエネルギーを蓄えた丈夫なパンジーになるのです。 -
- 長く楽しめる人のもとで、愛されて欲しい
- こうして手塩にかけて育てたパンジーは、佐藤さんにとってまさに我が子のような存在。「お客様にどうやって楽しんでもらいたいですか?」という問い掛けには、こんな愛情いっぱいの答えが返ってきました。
「パンジーは咲いている花のほかに、つぼみがついているんです。花が萎れてきても、それを摘み取ってあげれば、つぼみに栄養が行くので次の花がちゃあんと咲き上がってくれる。そういう風に、一本の成長過程を楽しんでもらいたいですね」
(取材:2020年12月) -
新しい年を迎えると、花屋は一気に春の装いに。スイートピーやラナンキュラス、チューリップにアネモネと、色とりどりの花々が店頭を飾ります。園芸花でおなじみのパンジーも、近年大人気の春の切花。切花パンジーの生産者として全国的に名高い「みやび花園」さんの、花畑のようなハウスを訪ねました。
現在、日本で切花パンジーを生産している農家は二軒のみ。そのうちの一軒である「みやび花園」の代表・佐藤雅志さんがパンジーの栽培を始めたきっかけは35年ほど前にさかのぼります。ある日、佐藤さんが卸先の花屋に立ち寄ったときに店頭に並んでいたのが、他ならぬ切花のパンジーでした。目にしたときの驚きを「パンジーが切花として存在するんだということにショックを受けました。あの感動は今でも忘れられないですね」と語ります。
PRODUCER’S DATA
みやび花園
(群馬県富岡市)
代表の佐藤雅志さんは切花パンジー生産の第一人者。園芸品種を切花用に改良した『絵になるスミレ』シリーズの“ミュール”は大田花きが選出する「フラワー・オブ・ザ・イヤーOTA2016」の新品種奨励賞を受賞。パンジーのほかルピナス、ケイトウなどを生産。